津地方裁判所 昭和53年(行ウ)3号 判決 1978年8月17日
原告 種村一博
被告 穴太土地改良区
主文
一 本件訴を却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五二年六月一二日議決した換地計画案を無効とする。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 本案前の申立
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は昭和四八年一月三一日許可番号三重土地改良三〇五の四〇一号によつて設立を認可された土地改良区であり、原告はその組合員であり、昭和四九年一一月二三日より理事であつたが、昭和五二年三月三一日より土地改良法(以下「法」という)一八条一五項に基づく理事職務執行者である。
2 被告は昭和五二年六月一二日法五二条五項に基づく会議(以下「換地会議」という)を開催し、理事会提出の換地計画案を原案どおり議決した。
3 右換地計画案は、土地改良法に定められた換地決定に関する規定の各条項並びに照応の原則に次の如く違反し、一部の組合員に極めて大きな不公平と不利益を与える。
(一) 各組合員共換地割当て土地を従前地地積の九九パーセント(一部(第六工区)においては九四パーセント)のみを基準と定め、法五三条一項二号に掲げる用途・土性・傾斜・温度・その他の自然条件・利用条件などは照応されておらず、そのために、優先農地、幹線道路直面地など高価格農地所有者であつた組合員の中には、耕作不可能な水田、従前地に比べて地力劣悪な水田、農業機械使用不能又は使用困難な水田、集団化できない水田を割当てられ、少額の清算金交付では損失補填が不可能であり、他の組合員に比べて大きな不公平と損失を強制的に与えられる組合員が、少数ではあるが生ずるものである。
(二) 昭和五一年一〇月三〇日付理事長佐藤正雄名により、各組合員に配布した換地計画案通知書には、割当てるべき土地の大字・字・仮地番・地目・地積のみを記載し、法五二条の五の各号に掲げられた、一換地設計、二各筆換地明細、三清算金明細、四換地を定めない土地その他特別の定をする土地の明細、五その他省令で定める事項の一切が記載されていない。
(三) 現在に至るも、詳細な各筆換地明細書は作成されていない。
(四) 清算金明細は換地会議まで明らかにされなかつた。委任状提出者、書面による議決参加者、欠席者は、委任状を預かつた者又は理事などから換地会議終了後、「所有権に関する明細書」の配布を受けるまで自己の清算金を知らなかつた。従つて、出席者以外は、換地会議前に自己の清算金支払金額又は受領金額を知り、換地計画案賛否の資料として思考することは不可能であつた。
4 原告及び農地を共有する原告の長男恵一、長女奈代子に割当てられる土地(地目田、仮地番三三〇、同三三一、合計(二七六平方メートル)を従前地(大字穴太字萱場四八〇番の一、同四八〇番の三合計一反二畝二八歩)に比べると次のとおり照応の原則に違反する。
(一) 原告外二名の従前地は麦を除いて二毛作可能水田であり、耕耘機、田植機、刈取機などの使用に支障がなかつたにかかわらず、当該換地計画案による割当地は泥土が極めて深く、約一、五メートルに達する部分も存在し、一切の農機具使用と水稲栽培不可能部分が存在し、残る部分も耕耘機、田植機の使用が極めて困難であり、作業時間は従前地に比べて数倍必要であり、その作業労苦は比べることができない。
(二) 従前地は東員町幹線道路の通称萱道の東西に直面していたが、割当地は幹線道路直面でなく、進入条件は穴太土地改良区圃場において最悪である。
(三) 従前地は幹線道路の東西に直面していたため宅地化が可能であつたが、割当地は幹線道路に直面しておらず、泥土が極めて深いために宅地化は困難であり、宅地用として転売のときなど従前地に比べて価格は甚だしく下落する。
(四) 割当地は降雨により南に隣接の排水路を溢水する濁流によつて水没し、木片・竹・ビニール薄片類・ボロ布・紙・刈り放された雑草・ビニールビン・ガラスビンなどが流入残留し、有害塵芥となる以外にも水稲を押し倒すなどの損害を与える。従前地にはこのような損害はなかつた。
(五) 割当地の南の排水路との間に、圃場上面より高さ約五〇センチメートル、幅約二メートルの空地が設けられており、すゝき・あしなどの長草が繁茂して、日照及び通風を妨害し、稲作害虫・雀などが繁殖寄留して稲作に害を与える。従前地にはこのような空地に接していなかつた。
(六) 従前地は、夏期には水量豊富な幹線水路に直面し、灌水は極めて安易良好であつたが、割当地は水路の最末端に存在し、上流水田に水を取られて水路からでは灌水を取ることができない。
5 理事長佐藤正雄は、非組合員三林茂一に圃場整備完了後の農地(仮地番三一三号の一部推定約二〇〇平方メートル)その南に隣接する水路推定約一〇平方メートル、水路に平行直隣の農道推定約五〇平方メートルを供与し、右三林は昭和四九年七月頃より右土地上にコンクリート製ブロツクによる土囲いと土盛りをして宅地化し、鉄筋コンクリート製住宅推定約一〇〇平方メートル(一部二階建て)を建築し、現在三林の未亡人春代が理髪店を経営している。
理事長佐藤正雄の右行為は、穴太土地改良区内の農地を私物化し、法及び農地法に違反し、組合員の期待を裏切る背任行為であり、三林の右行為は、刑法、法、農地法及び建築基準法違反の行為であるにかかわらず換地会議において何人からも異議申立はなされなかつた。
6 原告は昭和五二年六月六日の被告理事会において換地計画の違法を主張したが聞き入れられなかつた。しかし、本件換地計画は憲法一四条一項、二九条一項、法一条一項、一九条の二・一項、五二条の五、五二条三項、五三条一項二号、同条二項の各規定及び目的に違反するものであるから、原告は民法九〇条の規定により、換地計画を無効とする旨の判決を求める。
二 被告の本案前の主張
換地計画は法五二条一項の規定に基づき知事の認可によつて法律上の効力を生ずるものであり、未だ認可を受けていない換地計画は法律上の効力がない。そして、法律上の効力の存しない行為は行政事件訴訟法三六条に規定の無効確認の訴の対象とならず不適法である。
理由
一 本訴請求は被告の定めた本件換地計画(弁論の全趣旨によれば、本件換地計画につき未だ知事の認可はなされていないことが認められる)の無効確認ないし取消を求めるものと解される。
二 換地計画は、事業計画で定められた事項を具体化するための計画であり、(一)換地計画、(二)各筆換地明細、(三)清算金明細、(四)換地を定めない土地その他特別の定めをする土地の明細、(五)その他省令で定める事項について詳細に定めたものであつて(法五二条の五)、それは換地処分の基礎をなし(法五四条)、その実施により利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすのかを確定するものである。この意味において、換地計画は個人の権利義務に影響する具体的処分と密接な関係を有するのである。
ところで、法は、土地改良区の定める換地計画については都道府県知事の認可を必要とし(法五二条一項)、換地計画は認可により始めて効力を生ずるものとしている。従つて、知事の認可を受けていない本件換地計画は効力を発生することなく、改良地区内の土地所有者等の権利に対し具体的な変動を与えることはない。
さらに、認可はその形式からすれば、上級行政庁の下級行政庁に対する内部的な監督権の発動というべきであるが、その発動前に(法は認可に当たつては換地計画につき詳細な審査を行つてその適否を決定し関係者による異議申立手続を経由すべきものとしている(法五二条の二、同条の三、同条の四))司法権が介入することは監督権を侵害するものというべきであり、他方認可に対し無効確認又は取消の訴を認容すれば関係者の権利保護に欠けるところはない。
三 従つて、認可前の本件換地計画は無効確認又は取消訴訟の対象となる行政処分にはあたらず、本件訴は不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 豊島利夫 川原誠 徳永幸蔵)